すっかり秋の空気になってきましたが、夏が始まる頃に公開された映画といえば、シン・ゴジラです。FINAL WARSから12年を経て復活した新しいシリーズもののゴジラとして注目されました。
身近な建物が壊れるということもあり、小学生の頃からゴジラは好きなシリーズ作品だったのですが、ある時期を境にしてパッタリと見る気力がなくなってしまいます。たまにネットの口コミサイトなどでは、作品に恋愛要素はいらないと書かれていることがあるのですが、個人的には「非現実的な設定」が原因となって、見る気力がなくなってしまった部分が大きかったです。特にゴジラFINAL WARSに関しては、今まで見てきた映画の中で「見て損をした作品トップ3」に入っています。実はほかの2つもゴジラ関連作品で、そのうちの1つは都庁も建設されていない頃に作られた1984年版のゴジラです。
ちなみに、ゴジラ作品ばかり見ているからこんなランク付けになったというわけではありません。Huluで映画を見る機会も多いため、「インディペンデンス・デイ2014」や「シャークネード」などのB級作品、ハリウッド映画なのにオチが酷いと言われるとある映画なども見てきましたが、特撮映画の金字塔のようなものだと思っていたゴジラが、作品ごとにクオリティが下がっていくことに、どうしても納得がいきませんでした。
シン・ゴジラは違いました。初めて見た予告編でいきなり度肝を抜かれたのが、精巧に再現されたセットの数々、そして撮影手法の大きな変化です。あれだけ多くの人が出ていながら、ゴジラが街を破壊するシーンは一切なく、そもそもゴジラすら出てこないバージョンのCMまで作られていました。今までとは違うゴジラのCMに、ワクワクが止まりませんでした。そんな気持ちをさらに後押ししたのが、あるネタバレのワードです。こちらについては後ほど言及しますが、あの言葉に関する情報を集めるため、片付けなければいけないことそっちのけで、3時間ほどネットの渦に飲み込まれた日もありました。
※ここからネタバレがあります。
仕事などが一段落し、見に行ったのは9月1日のことでした。ゴジラロードを通り抜けてTOHOシネマズ新宿へとたどり着き、公開の1時間ほど前から近くで待機していました。下の動画も、ゴジラ上映を待機していた時に撮影したものです。
上映が始まってからは、ひたすらスクリーンに目が釘付けになっていました。冒頭こそこれまでのゴジラとあまり変わらないと思っていたのですが、前田敦子さんが本当にほんの数秒しか出てこないことが、一番最初に驚いたところだったと思います。「だったと思います」というのは、この段階でびっくりしたことがいくつもあったからです。Twitterの再現、水しぶきのCG、アクアライン内の騒々しさ、会議が招集されるまでのやりとりなど、あまりにペースが早かったので時系列はぐちゃぐちゃだと思いますが、とにかく開始10分で脳内はワクワクで満たされていきました。
何度も会議が重ねられ、有能な人も無能な人も続々と集まる国の施設ですが、そこにはX星人も小美人もいません。フィクション色の強い登場人物が一切排除された「豪華で地味なシーン」、そのリアルさに圧倒され続けていました。本末転倒な話ですが、そのビジュアルに見とれている間にストーリーが進んでしまい、所々内容がすっぽ抜けてしまっています。そういう意味でも、何度も見に行きたくなる作品でした。
中盤に入り、ゴジラが蒲田に上陸したり、変態を遂げたりと、徐々に「知っている姿」へと変わっていきます。そこには「もうすぐ核兵器が撃ち込まれるかもしれないのに、ゴジラ周辺へと駆け寄るような命知らずの野次馬の大群」などは一切なく、必死に逃げたり、戸惑ったりする人の姿がありました。撮影にあたってiPhoneやGO Proも使っているというお話もありましたが、高校生でも少しアルバイトをすれば買えるレベルのアイテムを使うことで、臨場感がより伝わってくるような気がしました。
多摩川でゴジラを食い止めるタバ作戦がスタートし、次々に砲撃を受けるゴジラ。「やったか」というフラグの台詞の後、黒煙からニュッと出てきたのは、ゴジラの顔でした。これが、生まれて初めてゴジラが怖いと思った瞬間でした。あちこちから弾薬を撃ちまくり、富士駐屯地からの爆撃も行ったのですが、何の効果もなく戦車がポンポンと宙を舞っていきます。戦車を吹き飛ばした当事者のゴジラはその光景に目もくれず、何事もなかったかのように「上京」していきます。
夜になってからは米軍も駆けつけ、ゴジラを標的にした爆撃がスタートします。一応、かすり傷程度のダメージは与えましたが、その直後にゴジラが始めたのは、レーザービームのような攻撃の数々でした。ノウイングのラストシーンかと思ってしまうほど、東京の中枢は一瞬で炎に包まれていきます。幸いにも(?)新宿がダメージを受けたという描写は一切ありませんでしたが、霞が関や銀座など、作中に出てきた所は個人的にも縁のある場所でした。初代ゴジラでは破壊に時間をかけていた銀座和光でしたが、今作では一瞬にして焦土化し、総理大臣たちが乗ったヘリも一瞬で破壊されてしまいます。
攻撃の最中に流れていた音楽「Who will know」は、何度もCMで流れていました。にも関わらず、何度も聞いていた「CMの曲」が「恐怖のBGM」に変わり、変貌を遂げた東京の姿とテロップを見て「東京はおしまいだ」と思わずにはいられませんでした。炎に包まれるどころか、炎そのものとなった霞が関と、「ここが霞が関ですよ」と淡々と主張するテロップを見た時の恐怖心は、今思い出しても鳥肌が止まりません。
子供の頃にアンネの日記を読んだ後、「自分たちがガス室送りになり、これから殺されることになった」という夢を見たことがあります。あの時は恐怖のあまり、自分の泣いている声で起きたことがありましたが、あのワンシーンだけでも、その時の体験に近いものがありました。さすがにこの年齢になると、人前で泣くようなこともありませんが。
忘れてはいけない印象に残っているシーンはほかにもあります。シン・ゴジラを最も見たいと思った理由、ヤシオリ作戦です。無人在来線爆弾という言葉を知り、概要を知った時、何が何でも映画公開中に見に行きたいと思ったものです。ですが、目的のシーンを見ても、今まで以上に感極まることはありませんでした。なぜなら、その時点で多くのシーンに圧倒されてきたからです。
グラントウキョウの破片が地面に叩きつけられてから、知っている町並みがゴジラを倒すために使われていることを再認識したのですが、存在しないビルをあそこまで作り上げ、そして壊すという手法には感心せざるを得ませんでした。ただ、一番期待していた無人在来線爆弾のCGが、思ったよりもリアルにできていなかったことが残念でした。CGにCGを重ね、そこにまた何重にも映像を重ねるようなシーンなので、致し方ない部分はあるとは思うのですが、JR東日本もぜひ協力企業の名前に名を連ねてもらうか、もうすこし精巧な模型などで再現できたらなぁと思ってしまいました。
これまで映画を見終わって感動した、と思うことはあっても、呆然としたことは1度もありませんでした。今回のシン・ゴジラは大入り満員ということもあり、なかなか座席を立つことができなかったのですが、館内が明るくなり、半分以上の人が座席を立っても、全く動けずにいました。目にしていたのは確実に地獄のような映像だったのですが、それでも希望に向かって進んでいく人々の姿を見ていると、まだ見ていたいという気持ちがあったから、というのもあるかもしれません。
おそらく向こう10年間、この映画は「一番好きな映画」として脳内に刻みつけられると思います。ただ、個人的には続編は作らず、今作で終わってほしいという願望もあります。と言いつつ、続編が出たら確実に見に行くと思いますが…。