「新宿の治安」を使ったクリックベイトについて

新宿3丁目
先日、東急歌舞伎町タワーの件におけるアテンションエコノミーについて触れたのですが、今度は歌舞伎町全体を材料にして似たような「ネタ」を作る方がいらっしゃったようです。

今回動画として配信を行ったのは、Oriental PearlというYouTubeチャンネルを運営されている方で、「日本で何が起きているのか」というタイトルで日本の治安について語られています。

動画の後半では新宿駅を訪問し、ホームレスが増えたり、落書きが増えたりしているというレポートを行っているのですが、この辺りは間違っていないけど今に始まった事ではない、ミスリードと言える状態なので、少しだけ訂正しようと思います。一旦先に指摘させていただくと、新宿の治安と日本の治安は直結していません。言うまでもなく歌舞伎町は特殊なエリアで、この部分だけを取り沙汰して日本の治安が悪化しているという印象操作をすることは、誰のためにもならない情報発信になっています。

確かに、都庁の北側に9月から設置されたばかりの看板などを始め、新旧様々な場所に落書きが行われているのですが、落書きの増減は今に始まった話ではありません。現在もホームレスの方などが日常的に滞在している「角筈ガード」では、現在の壁面になるまで無数の落書きがありましたし、何より隣接する思い出横丁では以前「しょんべん横丁」という俗称を付けられるほど、落書きとは比較にならないタイプの治安の悪さが問題視されることもありました。

動画内では大ガードで落書きが新たに誕生したというようなニュアンスでも紹介されていますが、こちらも地元の人であればご存知の通り、落書きが増えては消え、また増えては消すの繰り返しを続けている場所です。個人的には最も落書きが酷かったのは、平成10年代中盤だと記憶しています。むしろ今回この場所で動画を撮るにあたって指摘すべきは、一帯で常駐されているホームレスの方々なのですが、Oriental Pearlさんの「得意分野」でありながら、それらの方へ取材を行っている様子はありませんでした。

功罪は色々あるかもしれませんが、少なくとも歌舞伎町浄化作戦を皮切りに歌舞伎町の治安は明らかに良くなりましたし、繰り返し行われた暴対法の改正によって、一般人に危害が加わる可能性も明らかに減りました。誤解を恐れずに言えば、当時を知っている人間からするとトー横キッズなどの存在は大人しい方であり、暴対法を含む各種規制が強まったことによって、これまでスポットライトが当たりにくかった不法行為などが問題視されるようになっただけ、というのが妥当な認識だと思います。とは言え、歌舞伎町では毎日のように小規模なトラブルが起きているので、新宿ニュースBlogではニュースバリューがありそうな特定のスポットを除き、基本的に取り上げないスタンスを引き続き続けています。でなければ、収益を見込めずに更新が止まった某サイトみたいに「老舗暴力団事務所の2件隣にある飲食店を無邪気に紹介する」なんていう事故を起こしかねないからです。

小田急エース北館周辺にいるホームレスの方々を恐らく無断で撮影するなど、法的にもすれすれの事をされているように見えたのですが、今回一番の「ミスリード」だと思ったのは、TikTokとInstagramに投稿された別角度の治安に関する動画です。

https://www.instagram.com/p/DP1WsmaksuJ/

コメント欄でも散々ツッコミが入っていますが、こちらでは外国人観光客が増えた事により、歌舞伎町でごみの不法投棄などが増えた、というような見せ方をされています。前述の通り、歌舞伎町では「毎日のように小規模なトラブルが起きている」わけで、外国人が増えたというのは治安上何の関係もありません。ごみの不法投棄についても、トー横キッズの方々が出しているものを除くと半分程度が飲食店系事業者の不法投棄であり、ボランティアの方による清掃などは何十年も前から根気よく続けられているものなので、出来事全てが今に始まった問題ではありません。

過去に小池百合子都知事や渡辺謙さんといった著名人の方々へ独自取材を実施するなど、YouTuberとして並外れた活動をされているAbroad in Japanのクリス・ブロードさんが、該当の投稿を問題視した事がきっかけで「日本在住系外国人YouTuber界隈」で問題が大きくなったようですが、この時クリスさんは、中目黒の動画についてフォトショップを使って落書きを増やしている事を指摘しています。実際、中目黒で撮影した写真のサムネイルでは加工されていることが明らかになっているのですが、ざっくり確認した感じでは新宿で撮影した動画に関しては、幸いにも加工された痕跡がありませんでした。ただし、これまで書いてきた通り、複数のミスリードによって誤った認識を広められてしまう形になっているため、今後この方からの情報発信については、一旦立ち止まって注意をする必要があるかもしれません。

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